投稿日:2022年3月3日 | 最終更新日:2024年2月3日
歯周病と全身疾患の関連について
歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨など、お口の中だけの病気ではありません。全身の健康にも大きく影響を及ぼすことが分かっています。菌が血液を介して全身に運ばれることによって、様々な病気を引き起こすのです。
歯周病とは?
歯周病は、細菌の感染による歯肉の炎症がおこった状態です。現在、日本人の8割が歯周病を持つと言われており、かなり進行しないと痛みや腫れなどの自覚症状が現れないため、重症化するまで放置している方の多い病気です。
歯と歯肉の境目の清掃が行き届かないでいると、そこに多くの細菌が停滞し(いわゆる歯こう)歯肉の辺縁が炎症を帯びて赤くなったり、腫れたりします(痛みはほとんどの場合ありません)。そして、進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなり、歯を支える土台が溶けて歯が不安定になり、最後は抜けてしまったりします。
歯周病と全身疾患の関係
歯周病は口の中だけの病気と軽く考えてはいけません。歯周病は糖尿病や喫煙などと同様に、生活習慣病の一つと考えられています。実際に、歯肉で炎症が続いていると、歯周病菌や菌の出す毒素が血流に乗って心臓に運ばれたり、肺に入ったりして、全身疾患を引き起こすおそれがあることがわかってきています。
また、高齢者に多い誤嚥性肺炎を予防するためにも、歯周病のケアは非常に重要です。誤嚥性肺炎は、歯周病菌などの細菌が唾液や食べ物と一緒に肺に入ることによって起こるといわれています。食事中だけでなく、就寝中などに自覚なく、唾液と共に菌が誤嚥することによって発症するケースも多いとされています。
特に入れ歯には細菌がつきやすく、定期的な入れ歯の手入れ・調整も大事です。
歯周病の治療
はじめに行われるべき治療が、原因である歯垢の除去および歯石の除去、歯の根の面の滑択化、ぐらぐらする歯の咬み合わせの調整などです。基本治療で一部ポケットの深さが改善されない場合や、歯周病の進行が進んでしまった状態に対して外科的にポケットの深さを減少させる場合もあります。
また治療により症状が一時改善したとしても、歯周病は再発の多い病気といわれています。 治ったとしても溶けてしまった骨が完全に元通りに戻るわけではなく、ほとんどが歯と歯肉がそっと寄り添うような形で治っているのにすぎません。ブラッシング(歯磨き)が不十分であったり、定期的なケアを怠ると細菌が活動しはじめ、歯周ポケットが深くなり容易に再発をおこします。
関連する全身疾患とは?
狭心症・心筋梗塞
血管を詰まらせる原因となる「血栓」と菌に関係があることが知られています。血栓によって血管が詰まることで、狭心症や心筋梗塞などの心疾患を引き起こします。
歯周病の人は1.15~1.24倍リスクがあがります。脳梗塞
血栓によって脳の血管が詰まることにより、脳梗塞を起こすリスクが高まります。罹患した方はそうでない人にくらべて2.8倍も脳梗塞リスクが高いといわれています。
肺炎
誤嚥(ごえん)によって菌が気管に入り込んで肺にまで到達すると、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。とくに高齢の方は注意が必要です。
動脈硬化
おかゆ状の沈着物が血管内に溜まり血管を狭めることで動脈硬化を引き起こすといわれています。この沈着物内に菌が検出されたという報告があります。
肥満
生活習慣病のひとつであり、肥満とも深い関係があります。肥満の方のリスクが高まったりします。
糖尿病
糖尿病とは、お互いの病状を悪化させる関係であることが指摘されています。その原因としては、インスリンの働きが低下することによるといわれています。
骨粗鬆症
骨粗鬆症になると歯を支える歯槽骨という骨ももろくなってしまいます。このため、病状の悪化リスクが高まります。
低体重児出産・早産
妊娠している女性が罹患すると、陣痛を促す物質が分泌されることにより、早産や低体重児出産のリスクが高まることもあります。
「アルツハイマー病」の進行を促進!?
認知症の中で最も多い、アルツハイマー型認知症。脳の委縮が特徴のアルツハイマー病によって起こる認知症のことで、症状はもの忘れなどの記憶障害や判断力の低下などです。 治療が、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性が指摘されました。
歯周病との因果関係については、まだわかっていないものの、動物実験の結果は、アルツハイマー病の悪化因子であることを示唆しています。人工的にアルツハイマー病にしたマウスの半数に歯周病を発症させたところ、健康なマウスよりも認知機能が悪化。実験後に、脳に沈着したアルツハイマー病の原因とされるたんぱく質を調べると、健康なマウスに比べて、歯周病マウスのものは重量で約1.5倍、面積では約2.5倍にもなっていました。研究者は、口の中の菌や炎症のもととなる物質などが、血流に乗って脳に運ばれて何らかの影響を与えているのではないかと考察しています。
アルツハイマー病を悪化させる要素ならば、治療はアルツハイマー病の進行を遅らせる有効な手段になり得るかもしれません。
歯を失うことも、アルツハイマー病に打撃
歯を失うことも、アルツハイマー病と無関係ではありません。アルツハイマー型認知症の発症には脳の中の神経伝達物質の減少が関わっていると考えられており、神経伝達物質は噛むことによる刺激が脳に伝わることで増えるからです。また、噛むことが脳を活性化することもわかっています。つまり、歯を失うことが、アルツハイマー型認知症の引き金にもなりかねないということなのです。アルツハイマー型認知症の人は健康な人よりも歯の本数が少なく、また、残っている歯が少ないほど脳の委縮が進んでいたということが報告されています。