インプラントが欠損部への補綴治療として広まって半世紀近くになります.今やインプラントは失敗や成功を論ずべきレベルではなく,歯科大学の学生教育に導入され,正しい診断の元に行えば,失われた咀嚼機能を回復できる有効な歯科治療となりました.公益社団法人日本口腔インプラント学会ではインプラント治療指針のテキストや学生用の実習書などを作成していますが,これらの教科書にはインプラントを埋入する前に,残存歯の歯周病や根尖疾患を前もって治療しておくことや,術後のメインテナンスの必要性などが当たり前の事として記載されています.
しかし,これらのガイドラインは,厚労省や学会が治療指針の整備を始めた2000年代に確立されたものです.残念ながら1990年頃に埋入されたインプラントにおいては,これらのルールが守られずに治療が進められたケースも少なくありません.インプラントを埋入した歯科医が,最後まで責任をもって患者を管理できれば理想的ですが,現実はそうではありません.インプラント埋入手術を行った歯科医が他界,または閉院し,自身の口腔内を継続して診てもらえる歯科医を探す患者が増加しています.定年退職後,都会から田舎に引っ越したが,インプラント医が見つからず,一般歯科でメインテナンスを受ける患者も多くなりました.そのような中には,埋入前に口腔内の清掃指導を受けずに,そして術後のメインテナンスの必要性さえも聞かされていない患者もいます.
このようなインプラントを継続管理できる歯科医がいない,行き場のない”インプラント難民”が増加しています.
超高齢者の口腔管理が在宅や施設介護の現場で重要視されていますが,インプラントの管理は特に難しく,現場の歯科医や歯科衛生士からは,埋入したインプラント医が責任を持てないインプラント治療の現状について,疑問の声が上がっています.このようなインプラント難民は,今やすべての歯科医の問題となっています.
そのような患者に我々はどのように向き合って行けばよいのか,皆さんと意見交換しながら高齢インプラント患者の”メインテナンス”から”看取り”までインプラントの終末治療についても考えてみたいと思います.